7月22日(木)


僕らの仕事に「旅」は付き物だ。
これは別に最近の事じゃなく、何十年も前からミュージシャンには旅が付き物だ。
自分達を待っている全国のリスナーに曲を直接届きに行く手段として「コンサートツアー」というものは、この先もきっと無くなる事はないと思う。
何故、わざわざ手間や時間やお金を掛けてなぜ「ツアー」をするのか?
何故、テレビでライブを放映したりDVDでリリースしたものを観てもらうだけじゃダメなのか。
その答えはこのブログを読んでくれているひとなら、敢えて説明など要らないですよね。
ミュージシャンとリスナーを繋ぐツールとして、CDをリリースすることやメディアで作品や活動について語る事も大事なツールの一つではあるが、やはりダイレクトに繋がる事が出来る「ライブ」という形が、一番シンプルで分かりやすく、かつ重要なツールではないかと思う。
ここ何年かで演奏する為のライブハウスが全ての都道府県にでき、キャパの大小やインフラにこそ差はあれど、全国に演奏旅行をすることは割と簡単に出来るようになった。
僕がこの仕事を始めた20数年前は、都内や主要都市にこそ複数のライブハウスがあったが、少し離れた近郊都市にはライブハウスがない街もあった。
そしてロックバンドであろうと演歌歌手であろうと、コンサートツアーは全国の市民会館や文化会館、県民会館といういわゆる「公共のホール」を使って行うことが定番であった。
そしてロックバンドのオムニバスイベントも「公共のホール」で行う事が、極々当たり前の様に連日行われていた訳です。
クロマニヨンズなんかはハイロウズ時代もそうだったけど、ツアーの際はライブハウスとホールをうまく使い分けて行なっており、個人的な意見ではあるが、メンバーやスタッフの感覚として「ホールでライブをやる」事は、ごく自然な感覚なんだと勝手ながら思う訳です。


バンドが増えたせいなのかは分からないが、地方のそれ程大きくない都市に同じようなキャパのライブハウスが2つも3つもあるところが結構ザラにあり、それはそれでいい事だと思う反面、「そんなに必要なのか!?」という気にもさせられる。
ライブハウスにはもちろん良いところが沢山あって、僕らは車1台に楽器とメンバーを載せて行けば簡単にライブをする事が出来る。
コストをなるべく抑えるように努力すれば、100人や200人の会場を中心としたツアーでも、じゅうぶんな収益を残す事が出来る。
イコール、バンドを維持して行くことや運営していく事が、精神的な部分以外ではそれ程難しくはなくなってきてる時代なんだと思う。


ライブハウスって「良い」ところと「良くない」ところが共存する場所なのではないかと個人的には思うんです。
例えばステージとの距離感が近い。
これはまさしくライブハウスの醍醐味のひとつだろう。
一方、トイレやドリンク引換の行列が面倒くさい。
ライブハウスのデメリットの代表的な部分だと思うが、これは事前に別の場所で済ませたり開場中に引き換える等すれば回避しやすい問題だ。
ずっと立ちっ放しでなきゃならない、そして身長の低い人はステージが見えるポジションを探すのに苦労する。
これは正しく僕にも当てはまる。
40を超えると2時間立ちっ放しってのは、正直かなりシンドイ事だ。
そしてそれ程背が高くない僕は、ステージがよく見えるポジションを探すのにいつも四苦八苦している。
「見つけた」と思っても途中から自然といつの間にか長身の人が前に来て、一気に視界を塞がれるストレスを何度も感じた事がある。
今、若い人で「ライブは楽しい」と思ってライブハウスに足繁く通ってくれているリスナーの人達が、10年経っても20年経っても変わらず音楽を愛し会場に足を運んで欲しいと願ってるのは、この仕事をしてる僕だけじゃなく、音楽に携わる仕事をしている人や、もっと言えばアーティストだって同じ気持なのではないかと勝手に想像したりする。
人間、年をとってくるとそれぞれに抱える事情も様々に増えてきて、例えば結婚して子育てに追われたり、仕事でもそれなりのポジションにつきなかなか余暇を楽しむ時間が作れなかったりと、日々の生活に追われがちで若い頃の様な楽しみ方をすることが自然と難しくなっていくものだ。
そんな中、僅かな時間とお金の隙間を縫って「ライブに行こう」と思ってくれた人達に「また来たい」と思ってもらったり「ライブはやっぱり楽しい」と思ってもらう事が、実は僕らに課せられた見えない大きな課題ではないかと思うのです。
チケット代をなるべく抑える事や出来る限りのインフラを整えることなど、重くのしかかるテーマとして常に付きまとう問題です。
その為の施策のひとつとして「ホールでのライブ」を常に模索しています。
一番の理想の形は全国のホールをコンサートツアーで回る事。
今、僕が一番理想としているロックバンドのあり方であったりします。
身近で一番のお手本になっているのがスピッツの活動形態です。
一度ツアーを行えば、40本や50本のツアーは当たり前。
あまりテレビにも出ず、アルバムをリリースしたらツアーで各地を細かく回って自分達の楽曲を届けに行く、というスタイルを、もう十何年続けています。
そしてきっと、そのスタイルは今後も変わらない気がします。
日本の各地にある市民会館や県民会館等の公共のホールは実はきちんと繋がっていて、客席数や構造に多少の差はあれど、舞台の大きさ、例えば照明やセットを吊るためのバトンの構造などが同じように作られており、音響、照明、舞台装置をフィックスさせれば、全国どの会場でもほぼ同様の演出をする事が出来るのです。
もちろんライブは生物なので、例えば演奏やMC等に毎回違いは出てきますが、制作側が意図する「今、アーティストが伝えたいと思ってる事」を地域の隔てなく提供することが可能なのです。
もちろん、その為には膨大なコストが掛かるのですが、全国何処へ行っても1,500〜2,000人の集客が見込めれば、それを実現する事は充分に可能な事なのです。


今、僕が業務として関わっているアーティストの人達は、「あと4〜5年やったら辞めよう」と思って活動している人なんて一人もいないと思います。
出来ればみんな、10年でも20年でも、気力と体力が失われるまで音楽活動を続けて行きたいと思っているはずです。
そんなアーティストの想いを出来る限り実現出来る手助けをする事が、僕のようなコンサート制作というポジションに付くものに与えられた最大の任務だと思っています。
この会社や僕自身が、世の中やアーティスト達から「もういいよ」と求められなくなる時が来ないとも限らないし、あと何年仕事出来るかなんて分からないけど、その想いだけは常に忘れずにいたいと改めて思ったりします。